EC物流ブログ

2024.04.16
EC物流ブログ

SIPの一課題である「スマート物流サービス」の特徴と目指している姿

いま、物流業界ではスマート物流サービスに注目が集まっています。スマート物流サービスは、国家プロジェクトである戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)の一つです。

この記事では、戦略的イノベーション創造プログラムやスマート物流サービスの概要を解説します。

加えて、スマート物流サービスが必要とされる背景、スマート物流サービスの実証実験で得られた効果などについても触れていますので、ぜひ最後までお読みください。

戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)とは?

戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)とは、日本の経済再生と持続的経済成長に向けた科学技術イノベーション実現のために創設された国家プロジェクトのことです。

SIPでは、内閣府に設置された総合科学技術・イノベーション会議(CSTI)を司令塔として、府省連携・産学官連携で重要課題と課題解決を牽引するプログラムディレクターを選定しています。

また、基礎研究から社会実装(実用化・事業化)までを見据えて、一気通貫で研究開発を推進しています。

2018年度から2023年度を第2期として、サイバー空間基盤技術や国家レジリエンスの強化など12の重要課題に取り組んでおり、そのうちの一つが物流業界のイノベーションです。

「スマート物流サービス」はSIPの課題の一つ

スマート物流サービスは、国家プロジェクトであるSIPにおける課題の一つとして、サプライチェーン全体(生産・流通・販売・消費)のデータを利活用するための技術開発を推進しています。

物流業界が抱えている課題を多角的に捉え、物流・商流分野のデータを活用した新しい産業や付加価値を創出し、高い物流品質の維持と荷主・消費者の多様な選択肢確保を目指します。

スマート物流サービスとは?

スマート物流サービスでは、現在取得されていない情報を含む物流・商流データを自動収集し、トレーサビリティや積載率、積み付け状況を把握する基盤構築を行います。

その基盤をもとに、サプライチェーンの最適化を図り、トラック積載率向上や物流倉庫・小売店舗の省人化、食品ロスや再配達の削減などを目指します。

現在、製造・販売分野では、情報システム活用による業務効率化を図るサプライチェーンマネジメントが急速に進められています。
しかし、物流分野には、アナログでのデータ管理など非効率な業務が多く残っており、サプライチェーン上の他分野と比較すると、成長が遅れていると言わざるを得ません。そのため、慢性的なドライバー不足や過酷な労働環境などといった課題に直面しているのです。

スマート物流サービスの研究開発が必要とされる物流業界の課題

物流業界では、以下の課題を抱えています。

  • ・ニーズの多様化、需要増に対する、ドライバー不足
  • ・ECなどによる、小口多頻度化と積載効率の低下
  • ・荷待ち待機時間をはじめとする物流特有の慣習

ニーズの多様化、需要増に対する、ドライバー不足

トラックドライバー需給の将来予測

2020年度 2025年度 2030年度
需要量 1,127,246人 1,532,527人 1,545,746人
供給量 983,188人 1,012,147人 970,306人
不足 △144,058人 △520,380人 △575,440人

出典:公益社団法人鉄道貨物協会「令和4年度 本部委員会報告書

公益社団法人鉄道貨物協会の将来予測によると、トラックドライバーの需要量に対する供給量の不足は、2025年度に約52万人、2030年には約58万人に達すると見込まれています。これは、2020年度の約14万人に対して4倍近い数字です。

また、不足補充のための求人を行っても、トラック運転者の有効求人倍率は2.68倍と非常に高く、募集しても集まらない状況です。

ドライバーには人的リソースが不可欠であるため、業務効率化や配車の最適化を図ると同時に、労働環境の改善も急がれます。

出典:国土交通省「トラック運送業の現状等について

ECなどによる、小口多頻度化と積載効率の低下

1990年 2010年 2015年
貨物一件あたりの貨物量 2.43トン/件 0.95トン/件 0.98トン/件
物流件数の推移 13,656千件 24,616千件 22,608千件

出典:経済産業省・国土交通省・農林水産省「我が国の物流を取り巻く現状と取組状況

貨物一件あたりの貨物量は、1990年の2.43トンから2010年の20年間で半分以下になった一方、物流件数は約1.8倍に増加しています。そして、2010年以降、トラックの積載率は40%以下の低い水準で推移しています。

これらは、EC市場の拡大により宅配需要が高まったことに起因しており、不在再配達などの新たな課題も生じています。課題解決のために、情報システムを導入して積載量や配車などの効率的な管理が重要だと考えられています。

荷待ち待機時間をはじめとする物流特有の慣習

ドライバー労働時間には、貨物の順番待ち(荷待ち)や積み下ろし(荷役)にかかる時間が含まれます。

国土交通省「トラック輸送状況の実態調査結果(概要版)」によると、「荷待ち時間のない運行」が10時間38分であるのに対し、「荷待ち時間がある運行」では12時間26分との結果が出ています。

荷待ちは必要な商習慣ですが、拘束時間に大きな影響を与えているのも事実でしょう。

荷待ち・荷役時間短縮のために、荷主・着荷主と協力しての運行計画立案、出庫業務や配車システムの最適化が重要です。

スマート物流サービスにおける主な研究開発

スマート物流サービスでは、主な研究開発として以下の2つがあります。

  • ・物流・商流データ基盤の構築
  • ・省力化・自動化に資する自動データ収集技術の開発

物流・商流データ基盤の構築

サプライチェーンの上流から下流までを網羅した物流・商流データを蓄積・解析・共有するための基盤構築に関する研究開発です。

物流情報の一元化と共有、物流プロセスの標準化を実現することで、個々のボトルネック解消に貢献し、サプライチェーン全体の省人化や工数削減などを狙います。

また、他のプラットフォームのデータや行政のオープンデータとも連係し、高精度の需要予測に基づく計画配送、業界や業種を超えた共同配送などを目指します。

実証試験では、トラック積載率のポイント向上やドライバー拘束時間削減といった成果が確認できています。

出典:国土交通省「SIPスマート物流サービスの取組み

省力化・自動化に資する自動データ収集技術の開発

物流・商流データ基盤に利活用する情報の収集と、物流現場の省力化・自動化を実現するための技術開発研究です。

最適な物流を行うために必要な荷物情報(サイズ・荷姿・種別など)を取得できるよう、次の2種類の技術が開発されました。
1つ目は、市販のスマートフォンで荷姿を読み取ると、映像処理AIにより正確なサイズ計測・荷姿種別判断・上積み可否判定を行うもので、それぞれ90%以上の精度を達成しています。

2つ目は、画像認識技術を活用し、自動荷下ろし時に荷物情報(サイズ・重量・タグ情報・場所・時間・画像)を自動収集できる技術です。わずか2.8秒で認識率99.9%、計測精度誤差10mm以内を達成しています。

スマート物流サービスの実証実験で得られた効果

スマート物流サービスの実証実験で得られた効果として、以下の2つがあります。

  • ・作業工数の70%を削減
  • ・配送トラック数42%、店舗移動距離14%を削減

作業工数の70%を削減

実証検証では、サプライチェーンの個別管理データを標準化することで、作業効率の大幅な改善に成功しています。

個々の企業が独自に扱っているデータは、同じプロセスでも異なる名前で呼ばれていたり、同じ名前であっても別のデータを指していたりするものです。

そういった個別管理データを、PBE(Public Beta Enviroment・公開ベータ環境)技術を応用して自動的にSIPの標準データ仕様に変換する技術を開発しました。その結果、大幅な効率化が実現し、従来の作業工数の70%削減を達成しています。

配送トラック数42%、店舗移動距離14%を削減

SIPの先導のもと、コンビニ大手3社で物流課題の共有、スマート物流サービスへの取り組みを実施しています。

課題解決のために共同配送を行ったところ、重複する作業工程の集約や共同配送ルートの作成などが実現しました。

その結果、配送トラックの数は42%削減、店舗移動距離は14%削減されたことが確認できています。

スマート物流サービスの目標値

スマート物流サービスは、以下の課題を解決することで、30%の生産性向上を目標としています。

  • ・労働力不足:生産年齢人口は20年後に約20%減少すると見込まれている
  • ・ニーズの多様化:積載効率は小口多頻度化により20年前よりも約25%低下している
  • ・環境への対応:パリ協定により2030年までに温室効果ガスの26%削減を目指している

物流業界は、市場規模25兆円という一大産業です。

スマート物流サービスにより30%以上の生産性向上が実現すれば、その経済インパクトは年間で約7.5兆円に及ぶとみられています。

スマート物流サービスの推進は、課題解決だけにとどまらず物流業界を中心とした経済成長も狙っているのです。

スマート物流サービスが目指す姿は「全体最適」

スマート物流サービスが目指すのは、部分最適ではなく全体最適です。

2030年のSDGs達成には、個社単位で達成可能な領域だけでなく、個社だけで達成不可能な領域にも取り組んでいくことが必要でしょう。

【個社単位で達成可能な領域】

  • ・EDI(Electronic Data Interchange・電子データ交換)化
  • ・保管や作業効率の向上
  • ・倉庫内作業の省人化・自動化 など

【個社だけで達成不可能な領域】

  • ・共同配送
  • ・共同倉庫
  • ・標準化されたデータの蓄積(データの見える化)など

これからの物流には、サプライチェーン全体(生産・流通・販売・消費)で取り扱われるデータを一気通貫で利活用し、物流の全体最適化を図る必要があるのです。

物流業界全体で現状の改善に取り組もう!

物流業界は、労働力不足やニーズの多様化、環境への対応などの課題に直面しています。根本的な課題解決には、国家プロジェクト規模の対応やサプライチェーン全体の効率化が必要です。

しかし、個社で達成可能な領域の物流効率化を図るのであれば、物流業務アウトソーシングを検討してみてはいかがでしょうか。

EC物流の課題解決や物流プロセスの清流化をお考えの方は、ぜひ「EC物流お任せくん」の利用をご検討ください。